魚介類の"生臭さ"を増幅させるお酒の秘密
●ワインと魚介類との相性
ワイン好きの方の間でまことしやかに囁かれているのが、「和食の魚介類とワインって相性難しいよね・・・」ということです。「いやいや、魚介類と言えば白ワインでしょ?!」とおっしゃる方も多いと思いますが、実際に食べ合わせてみると、なるほど生臭くなってしまう組み合わせが確かに存在します。例えば私の実体験で言うと、"鮭とば"と白ワインは難しい組み合わせに思いました。
2010年に発表されたメルシャンの研究報告により以下のことが分かってきました。
・魚介類とワインを合わせることで初めて発生する生臭みについて調査した。もともと持っているにおいが"強調される"ケースなどは対象としない。
・最初にワイン中のどの成分が魚介料理と衝突するか検証し、次に特に衝突の見られたホタテの干物をワインに浸し、発生する揮発成分の同定と定量を行い生臭みの発生メカニズムを検証した。
・ワインの味や香りにはほとんど影響を与えない微量成分のFe2+が魚介に蓄積された過酸化脂質と口の中で化学反応を起こし、生臭みの成分や金属臭を発生させる可能性が示唆された。
●日本酒と牡蠣でも同じ経験が!?
私自身は日本酒を中心に扱っていますので、日本酒に置き換えて考えてしまうのですが、実体験として生牡蠣と日本酒の組み合わせによって生臭みが口の中で増幅されてしまうことがこれまでにありました。この現象自体は同業者との間でも確認できているものなので、たまたま酒器に鉄分が付着していた、などの偶然ではないと思われます。
しかし、日本酒に含まれる鉄分の量はワインと比べると著しく少ないことが分かっています。また原料のお米における含有量、醸造過程における発生量共に微量であることが分かっています。日本酒において、ワインと同様のメカニズムで鉄によって生臭みが発生していたと仮定するならば、どのような可能性があるでしょうか。一つには醸造から瓶詰までの過程での機器等からの微量の取り込み、一つには醸造用水からのキャリーオーバーという可能性が考えられるかと思います。この分野に関する研究はまだまだこれからなので、今後の報告が待たれます。
参考文献
田村隆幸:ワイン中の鉄は、魚介類とワインの組み合わせにおける不快な生臭み発生の一因である,醸協,105,139-147(2010)